触媒作用を小中高校生向けに端的に示す事例として、本年度は固体酸触媒による色素合成実験の教材化を検討した。色素合成実験は、生成物の検出を色の変化により示せ、学校での利用に適す。蛍光色素のフルオレセインやpH指示薬のフェノールフタレインの合成では、触媒として濃硫酸を用いる演示実験が従来からよく知られているが、濃硫酸を用いるために学校などでの実施には注意が必要である。そこで濃硫酸と同程度の酸性質を持ち安全に取り扱える酸型ゼオライトを適用することを検討した。これは、グリーン・サステイナブル・ケミストリーの考え方にもつながる。ゼオライトおよび反応条件を検討した結果、H-ベータゼオライトが本反応に高活性であり、触媒の前処理は数分のバーナー加熱だけでよく、10分程度の反応時間で十分な量の色素を合成できることがわかった。また、フルオレセインは、反応温度が高いと触媒なしでも合成されることから反応温度の検討を行い、反応温度が110℃のとき、触媒なしではほとんど合成されないが、触媒存在下で顕著に合成されることがわかった。このように触媒の実験では、ブランクテストと併せて実施することが重要である。このような検討により、これらの実験を授業時間内に安全かつ容易に実施し十分な効果を上げられるようになった。また、本手法により同系統の他の色素を系統的に合成できることが確かめられ、有機合成反応における置換基効果を示せることもわかった。こうした実験は研究代表者もメンバーである触媒学会触媒教育プロジェクトとの連携で、博物館やその他の社会教育施設などの実験教室、高校教員の研究会などで数回実施し、その効果と問題点を探った。本研究結果は、日本化学会春季年会で発表し、2008年夏には国際化学教育会議で発表されることになった。
|