本研究の目的は、地球物理学的手法(温度測定)、無機化学的手法(熱水変質鉱物の解析)、有機化学的手法(有機プロキシ組成の解析)、分子微生物学的手法(好熱性アーキアの遺伝子解析)によって得られる温度情報の比較検討を行って、鹿児島湾若尊火口における熱水循環系が形づくる火口底堆積層内の温度分布とその経時変動を推定することである。 平成20年度は、5月に行われた淡青丸KT-08-09調査航海および7月に行われた無人潜水艇ハイパードルフィンを用いたNTO8-17潜航調査航海に参加して、研究に必要な試料採取・計測を行ない、昨年度採取した試料と併せて分析・解析を進めた。さらに得られた結果を総括して、若尊火口における熱水循環系の地下構造を推定した。 無機化学的手法による解析では、高温熱水噴出孔近傍で採取されたコア試料から、熱水と海水の境界面である深度3m付近で3八面体スメクタイトの形成を伴う200℃以上の強い熱水変質を見いだした。この変質鉱物が見られた堆積物は硬化しており、熱水と海水の混合による変質鉱物の形成に伴って不透水層が発達し、海底下わずか3mでも体積層内で200℃以上の高温が保たれていると推定できる。 有機化学的手法による解析では、南西部の変色海域で採取されたコア試料から、深度20cmのコア試料から、C27ステランのエピ化の進行が深度方向に大きくなることを見いだした。このコア採取点での温度計測は120℃を示しており、この有機熱変性反応は堆積層内で起こっていると考えられる。 その他の海域で採取されたコア試料の解析結果の検討から、若尊火口の北西部に高温熱水が海底面上あるいは海底面直下まで上昇している場所が集中する一方で、中央部から南東部にかけて火山ガスの噴気の影響を強く受けている場所が広がるという温度構造が推定される。
|