研究概要 |
本研究では、水溶性天然ガス鉱床における微生物によるメタン生成プロセスに注目し、地下における微生物活動によってどのような堆積有機物が分解されメタン生成に利用されているのか解明する。 本年度は、千葉県と新潟県の水溶性天然ガス田のスラッジ堆積物と千葉県のボーリングコア堆積物試料について、メタン生成が起こった培養実験前後の試料に含まれる脂質成分とケロジェン成分の変化を調べた。脂質成分は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、脂肪酸を測定した。培養前の試料には、主に、n-アルカン/アルケン(炭素数16-32)、ペリレン、n-アルコール(炭素数16-32)、直鎖脂肪酸(炭素数12-30)、不飽和脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸等が含まれていた。それらの成分は、培養後に減少していなかった。幾つかの試料には、培養後の脂肪族炭化水素成分に、UCMが検出された。また、培養前後のケロジェン組成の変化を調べるためにロックエバル分析を行った結果、培養後にHIやOIが減少することが分かった。以上の結果から、メタン生成に利用された堆積有機物は、n-アルカン、アルケン、芳香族炭化水素、脂肪酸等の脂質成分ではなく、不溶性の有機物、ケロジェンであると結論した。堆積物中のバクテリアの働きによってケロジェンが分解され、その結果、CO_2や酢酸が作られメタン生成菌に利用されたと考えられる。このようなケロジェン分解-メタン生成経路は、これまで、湖沼や水田などの表層環境において考えられていた多糖類やタンパク質が分解されてメタンが出来る経路(Zinder,1993)とは、全く異なる分解経路であり、地下圏における物質循環を考える上で重要な発見である。メタン生成ポテンシャルの違いは、ボーリングコア堆積物の結果から、埋没による続成作用と関連していると考えられる。
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