太平洋の亜熱帯から中緯度の海域を対象に、1日から数日程度の短時間スケールの海洋変動が大気場に与える影響を明らかにすることが本研究の目的である。本年度は引き続きクロロフィル濃度及び海面水温の衛星観測データの解析を進め、大気擾乱の通過に伴う短期的なクロロフィルa濃度の増加現象に関する研究を行った。その結果、急激な海面水温低下を伴うクロロフィルa濃度増加は熱帯低気圧や温帯低気圧の通り道にあたる沖縄や本州の南方、及び黒潮・親潮続流域周辺で発生しやすいことが明らかとなった。一年を通しての総クロロフィルa濃度増加量のうち、低気圧通過に起因すると考えられるものの割合は大半の海域では5%以下であるが、縁辺海や黒潮・親潮続流域では部分的に数10%に達する海域もあった。台風など発達した低気圧の通過は時間的には数日程度と短いが、海洋生物生産や大気海洋間の気体交換に大きな影響を与え得ることが過去の研究でも示されている。本研究ではそのような低気圧の影響について特に注目すべき海域が明確に示された。また、大気海洋結合モデルを用いた数値実験も並行して進めた。西日本とその周辺海域を含む領域で梅雨期を対象に、海面水温の日変動を再現する場合としない場合で大気場に違いが生じ得るかどうかを調べた。その結果、両者の間で海上風や降水量に差が生じていることを確認した。詳細はまだ調査中であるが、晴天域での海面水温の大きな日変化が直上の海上風速に変化を生じさせ、それが降雨域に伝播し降水量に影響した可能性があることがわかった。本年度は更に台風シミュレーションで海面水温日変動を再現する実験も開始した。
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