大学や公的研究機関の研究成果を民間企業に移転・活用させることを通じて、イノベーションを実現し、新たな産業発展の基盤を確立しようとする産学技術移転策が世界的潮流となり始めている。しかも、科学技術政策と産業政策との融合を狙う、この新たな産学技術移転政策は、欧米や日本などの先進国はもとより、タイなどのアセアン諸国でも採用され始めている。但し、タイなどにおける技術移転機関(Technology Licensing Organization、以下TLOと略す)は、独立した機関としてではなく、ビジネスインキュベーターを併設し、コンサルティングや資金支援などを行う、TMC(Technology Management Center)の一部門として形成されていた。20年度においては、19年度に実施した、タイにおけるTMC形成の主導的役割を演じた国家科学技術開発機構(National Science & Technology Development Agency、NSTDA)のTMCに対する調査研究の成果を踏まえ、タイにおけるTMC形成のもうひとつの有力組織である大学セクターのTMC調査を行った。まず、大学のTMCの全体像を知るため、タイの大学を監督するCommission on Higher Educationを訪問し、タイにおける産学技術移転政策を調査した。その結果をもとに、2006年以降に実施されたTLO支援重点11大学のうち、バンコクに所在する6大学に面談調査を依頼した。その6大学とは、チュラルンコン大学、カセサート大学、マヒドン大学、シルパコーン大学、スアン・ドュシット・ラジャッパット大学、キングモンキット工科大学ノースバシコク校である。このうち、キングモンキット工科大学以外の5大学から面談を受け入れてもらい、担当者からTMC形成過程、機能、課題などを聞き、その成果を報告書にまとめた。
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