研究概要 |
ハロロドプシン(hR)は,高度好塩菌の細胞膜に存在する光駆動型Cl^-ポンプ蛋白質である.その分子機構を明らかにすることを目指して,本年度は,以下の二つの観点から研究を行った.なお,hRとしては,安定性に優れるN. pharaonis由来のhR(phR)を用いた. 1. 光化学反応サイクルの精密化 hRは,内包する発色団レチナールの光異性化反応をきっかけとして,種々の光反応中間体を経由して,元に戻るサイクリックな光反応(フォトサイクル)を起こす.この間に,Cl^-を代表とする種々のアニオンを,細胞外から内へと輸送する.フォトサイクルとイオン輸送機構の関係を明らかとするため,本年度は,Ser130及びThr218変異体のフラッシュフォトリシスと,Cl^-輸送能の測定を行った. (1) Serl30変異体:用いた変異体の全てにおいて,Cl^-輸送能がほぼ消失していた.また,特に,Cys, Thr変異体では,フォトサイクル全体に渡って,複数の中間体が混在して現れていた.これらの結果から,Ser130のOH基は,Cl^-を一方向へ輸送するためのゲートのような役割を担っていると推定した. (2) Thr218変異体:この残基を疎水的な残基に置換した変異体では,Cl^-放出時におけるCl^-との親和性の低下が著しく抑制されることが明らかとなった.Thr218は,細胞質チャネルからのCl^-の速やかな放出を担っていると推定した. 2. イオン輸送過程における構造変化(蛋白質内部への水分子の流入)の検出 hRのCl^-輸送過程における水分子の流入の有無とその役割を明らかとするため,浸透圧を上昇させた条件下でフラッシュフォトリシス測定を行ったが,Cl^-放出時における水分子の寄与(Cl^-親和性の低下)は認められなかった.Cl^-の放出は,外部の水分子の流入なしに,主に蛋白質側の構造変化によって実現されていると考えられる.
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