酸素発生型光合成生物は、二つの光化学系(Photosystem:PS)I、IIの反応中心で一次電子供与体が光励起して電子受容体に励起電子を受け渡し(電荷分離)、続く一連の電子伝達により、光→化学エネルギー変換を行う。しかし、数十段階のエネルギー・電子伝達を経ながら量子収率100%という驚異の効率を支える機能分子間の電子エネルギー準位チューニングと、強力な酸化力を生み水H2Oから電子を引き抜く仕組みは大半がブラックボックスにとどまる。本研究は、その全容解明を目的に、機能分子のレドックス電位の精密計測を行った。 水を酸化するほどの高い酸化力の根本は、PSIIの一次電子供与体P680にあるとされているが、P680のレドックス電位の実測例はなく、推測にとどまる。この推測の際電子受容体フェオフィチン(Pheo)αのレドックス電位が一つの指標となり、30年程前に-610±30mVvs.SHEと報告された値がこれまで重用されてきた。しかし、測定法に問題があることと、最近の速度論的解析から得られる知見から外れつつあることから、本研究では測定法を見直し、分光電気化学的手法の適用による測定条件の確立を図った。結果、さまざまな電位におけるPheoαの分光特性の観測に成功し、レドックス電位は従来の値より100mVほど貴にあることを見出した。この結果に伴い、これまで推測されてきたP680のレドックス電位も100mVほど貴だと示唆される(論文取りまとめ中)。 P680レドックス電位の直接計測については、高電位領域の分光電気化学測定を可能とするダイヤモンド網電極を用い、電子メディエーターの合成などにより測定条件の確立を計ってきたが、周縁クロロフィルの不可逆酸化などにより計測には至らなかった。今後浮き彫りになった課題の克服が実測に繋がるものと期待できる。
|