研究概要 |
錐体視物質遺伝子はX染色体上に「赤-緑」と並んでいるのが正常であり,不等交差により「赤のみ」「赤-赤」「緑のみ」あるいは「緑-緑」となるのが先天色覚異常の原因であるとされてきた。しかし、われわれによる日本人先天色覚異常の解析では「赤-緑」と正常に並んでいる例が559例中63例(11%)も存在した。本研究の目的は,遺伝子の並びが正常であるにもかかわらず色覚異常となっている原因をさぐることであった。上記63例中,ミスセンス変異やフレームシフト変異で説明できるのはわずか6例であり,前者については錐体視物質再構成実験を行い,当該変異の意義づけを行った。残る57例中,殆どの例(49例)は緑遺伝子のプロモーターに-71A→Cの塩基置換があった。-71Cプロモーターを作製し,ルシフェラーゼを用いたレポーターアッセイで解析したところ,同プロモーターは-71Aプロモーターの40%の活性しかないことが判明した。-71Cによって当該緑遺伝子の発現が低下していることが推測された。-71Cは-70の塩基とCGの配列を構成するのでメチル化されている可能性があった。白血球ゲノムを解析し実際にメチル化されていることを確かめたが,網膜錐体ではどうなのか,メチル化が遺伝子発現に影響するのか,などの解析は今後である。ミスセンス変異も-71Cの塩基置換も持っていなかった残る8例については,赤/緑遺伝子(約15キロ塩基対)の全塩基配列を解析した。正常色覚者30例も平行して解析し,未報告の多型を複数見出し,NCBIのSNPデータベースに登録した。色覚異常例だけで見出された変異についてはin vitroスプライシング系で解析したが,異常は見つからなかった。また,正常遺伝子のイントロンを上記のレポーターアッセイで調べたが,エンハンサー活性は検出されなかった。従って,これら8例については未だに遺伝子変異が判明していない状況である。
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