光合成細菌のタイプ1反応中心の電子移動経路上には、二次電子受容体として機能するキノン分子の存在が示唆されてきた。本研究では、二次電子受容体を分光学的に検出し、その反応特性と物理化学的性質を明らかにする目的で開始した。材料として好熱性の緑色イオウ細菌とヘリオバクテリアを用い、それぞれ分子遺伝学的、生化学的・分光学的手法による解析を推し進めた。まず緑色イオウ細菌のキノン合成遺伝子menGを破壊することを試みた。menGはSAMを基質とするメチル基転移酵素であり、メチル基をなくしたキノンの酸化還元電位は大きく変化し、電子移動速度が変化することが期待された。しかしながらmenG破壊株はmerodiploidとなり、どうしても破壊できない必須遺伝子であることが示された。それゆえ来年度は、キノン結合領域の改変を試みていくことに方針転換することにしている。一方、ヘリオバクテリアから反応中心を調製し、暗処理条件下、および光蓄積条件下でフラッシュ照射後の過渡吸収変化を測定した。暗処理条件下ではP^+F_x^-に由来するE/A型の電子スピン分極(ESP)信号が得られ、これは従来の報告通りであった。光蓄積条件下では新規なA/E/A型のESP信号が得られ、この成分は約70μsで減衰し、同時にP^+ラジカルも消失した。P^+とA_o^-間、P^+とF_x^-間の電化再結合反応の時定数はそれぞれ100ns、4msであることがすでにわかっている。したがって今回見出された新規な信号はP^+A_1の電化分離状態形成に伴う過渡的な信号であると推測された。さらに本反応中心標品のキノン含量をHPLCにより解析したところ、反応中心あたり約1分子のメナキノン-9(MQ-9)の存在が明らかとなった。今後、キノン分子が二次電子受容体として機能しているかどうかを、再構成実験を通じて確認していく必要がある。
|