光合成細菌のタイプ1反応中心の電子移動経路上には、二次電子受容体として機能するキノン分子の存在が示唆されてきた。本研究は、二次電子受容体を分光学的に検出し、その反応特性と物理化学的性質を明らかにする目的で行った。昨年はヘリオバクテリアから調製した反応中心において、P^+A_1^-に由来するA/E/A型の電子スピン分極(ESP)信号を検出することに成功した。本年はまず、この分極信号の精密化を行い(F_xの分極信号が一部重なっていた)、光化学系1反応中心(PS I)のE/A/E型とは大きく異なっていることを確認した。PS Iとの違いはキノン結合部位周辺のタンパク質環境および配向性の違いを反映していると考えられる。実際、アミノ酸配列からはヘリオバクテリアのキノン分子(A_1)結合サイトは電荷をもったアミノ酸残基が多く存在し、PS Iに比べてより親水的な構造であると推測される。次にキノンA_1の膜面垂直軸に対する配向角度を調べるために膜標品を調製後、ポリエステルフィルム上で乾燥させることにより配向性膜標品を調製した。外部磁場と膜面垂直軸との角度を変化させることによりESP信号強度の角度依存性を調べた。しかしながら得られたデータをもとにキノンの配向に関するシミュレーションを行ったが、よい相関性を示す結果が得られなかった。現在のところ少なくともPS Iや紅色細菌で得られているキノンの配向角度とは異なることは間違いないが、さらなるデータの精密化とともに測定条件の検討が必要である。さらにキノンが二次電子受容体として機能しているかどうかを、再構成実験を通じて確認していく必要がある。そこで膜標品をエーテル処理することにより、キノン分子を選択的に抽出することを試みた。現在のところ、未処理標品と比較してキネティックスには著しい違いは見出せないが、キノン含量を調べる必要がある。
|