研究概要 |
携帯電話,非接触ICカードに代表される小型情報機器の爆発的な普及に伴い,これまで人を介してなされていた諸サービスに代わり,小型情報機器を介してなされる新たな電子サービスが急速に普及しつつある.電子サービスが情報システムインフラとして定着するには,第三者への個人データの流出,個人データの改ざん,さらには第三者によるなりすましなどの問題の解決が必須である.また爆発的に普及した小型情報機器でのデータ保護には,低CPUでも高速かつ小メモリで実現可能であることに加えて,ユーザインターフェースが良いこともユーザの裾野が広がった現在の環境を鑑みると重要である. 上記背景のもと,楕円曲線E/GF(p)上の定義体GF(p)の拡大体GF(p^r)への双線形写像を利用する楕円双線形問題(BDHP)が提案された.BDHPは,既存の公開鍵暗号では実現できなかった名前や住所,メールアドレスなどのユーザ情報を公開鍵に利用するIDベース暗号を実現する.これはユーザインターフェースの観点からも意義は非常に大きい.さらにBDHPは既存の署名サイズの半分以下の電子署名方式等も実現し,更なる有効な応用への期待が大きく,国際標準化機構(ISO)やIEEEにおいても国際標準化が進められつつある. BDHPを用いる暗号の実用化には,適切な拡大次数,つまり,6以上20未満の拡大次数をもつ双線型写像を有する楕円曲線を効率的に構成することが重要である.実時間計算可能な双線型写像をもつ楕円曲線は研究代表者により初めて提案され,MNT(Miyaji-Takano-Nakabayashi)曲線と呼ばれる.MNT曲線は3,4,6次の素数位数楕円曲線の必要十分条件となっている.その後,MNTの考えを利用し10,12次の拡大次数の楕円曲線の一部が生成されているが,これらは必要十分条件ではない. 上記楕円曲線上の双線型写像の応用とECDLPの安全性評価に関する研究背景に対して,本研究において10次の拡大次数をもつ楕円曲線の定義体とトレースの新しい条件を明らかにした.
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