本年度はグラフ構造の圧縮を中心に研究を行い、以下の成果を得た。 (1) グラフ圧縮手法の開発とその代謝ネットワーク比較への応用 文字列の圧縮法として、与えられた文字列を生成する最小もしくはそれに近い文法を見つける文法圧縮という手法がある。特に複数回現れるパターンを繰り返し置換するSEQUITURという圧縮法がある。この方法をグラフの圧縮に拡張したGRAPHITOURという手法が提案されていた。しかしながら、GRAPHITOURでは同型なグラフを入力しても必ずしも同じように圧縮されないという問題点があった。そこで、同型なグラフは必ず同じように圧縮されるようにGRAPHITOURを拡張した手法を開発した。さらに、この手法を代謝ネットワークの比較に適用し有効性を確認した。 (2) 木の文法圧縮を行う分割型アルゴリズム 文法圧縮をグラフなどの構造データに拡張する試みは上記のように色々と行われてきたが、最小の文法と比べた時の圧縮率に理論的保証のあるアルゴリズムは知られていなかった。本研究では理論的保証のある木構造に対する文法圧縮アルゴリズムを開発するために、まず、枝の置き換えにより順序木を生成する文法を定義した。次に、文字列に対して知られていた分割型の文法圧縮アルゴリズムをもとに、この文法を用いて木構造の圧縮を行う分割型のアルゴリズムを開発した。そして、このアルゴリズムの近似率が0(n^{5/6})であることを示した。さらに、これらの結果を無順序木に拡張できることを示した。
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