研究概要 |
視覚系において,色・形・動きなど異なる視覚属性を処理するモジュールの情報をどのように統合し,一体のものとして認知し処理するかという結合問題(バインディング問題,結び付け問題ともいう)は,脳の認知メカニズムを解明する上で重要かつ未解決の難問である.本研究の目的は,「選択的不感化」という情報統合の原理に,脳では2属性までしか直接結合されないという2属性仮説を組み合わせることによって,この問題が解決可能であることを理論的に示すと共に,その妥当性を心理物理実験により検証することである.本年度は,仮説に基づくモデルの有効性の検証等を行った.主な成果は以下の通りである. 1.昨年度構築した選択的不感化ニューラルネットの関数近似能力を検証した.その結果,次元の増加に伴う計算量の爆発が抑えられること,冗長変数を加えても学習時間がほとんど増加しないことなど,理論の有効性を示す結果が得られた. 2.モデルから予測される錯視現象を実験的に確認した.これは,3種類の3属性図形を94msずつ切り替え,かつ左右眼に異なる位相で提示すると,一瞬も提示していない3属性図形が知覚されるという極めて興味深いものであり,属性対レベルで情報処理が行われていることを強く示唆している. 3.着色した図形の心的回転(メンタルローテーション)に関する実験を行った結果,色特徴を結合した状態のまま心的回転が可能であることが明らかになった.この結果も,2属性仮説と整合するものである.
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