研究概要 |
視覚系において,色・形・動きなど異なる視覚属性をどのように統合し,一体のものとして認知し処理するかという結合問題は,認知神経科学における重要かつ未解決の難問である.本研究の目的は,「選択的不感化」という情報統合の原理に,脳では2属性までしか直接結合されないという仮説を組み合わせることによって,この問題が解決可能であることを理論的に示すと共に,その妥当性を心理物理実験により検証することである.本年度は,実験の一部を拡充した上で,これまでの成果と合わせて下記2編の論文にまとめて発表した.また,社会への成果発信の一貫として,理論予測に基づいて発見された2種類の錯視現象が体感できるビデオ画像をWeb上で公開した. 1.Attribute Pair・Based Visual Recognition and Memory (PLoS ONE) : 3種類の実験の結果から,「一つの物体は2つの属性間結合の集合によって分散的に表現され,各結合を要素とするネットワークによって認識や記憶といった高次処理がなされる」という対属性モデルの妥当性を示した.また,これによって結合問題が容易に解決可能となることを論じ,具体的な解の候補として選択的不感化理論に基づく特徴結合のメカニズムを提示した. 2.選択的不感化ニューラルネットを用いた強化学習の価値関数近似(電子情報通信学会論文誌):選択的不感化と対属性モデルが有効であることを計算論的に示すために,それらに基づいて構成したニューラルネットを強化学習に適用した.その結果,高い学習効率や冗長変数へのロバスト性など,脳にはあるが従来手法にはない優れた性質が得られることがわかった.このことは,同様の原理が脳内で用いられていることを示唆している.
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