本研究では、ショウジョウバエ神経芽細胞の不等分裂に関与するbrat遺伝子発現のコントロールにより、ショウジョウバエ幼虫および蝋脳内に存在する概日ペースメーカー細胞からの安定培養株の樹立を目指した。本年度は、まず、brat遺伝子発現をコントロールできるドナー系統の樹立を、bratの温度感受性突然変異体を用いる方法とbrat遺伝子に対するRNAi系統を用いる方法で行った。これとは別に、概日振動をモニターするためのレポーター遺伝子と概日ペースメーカー細胞を標識するためのマーカー遺伝子(mCD8::GFP)を持つ系統を確立した。このマーカー系統とペースメーカー細胞でGal4が発現するpdf-gal4系統を交配して得られた幼虫を解剖して蛍光観察することで、ペースメーカー細胞の細胞膜がGFPで標識されていることを確認した。摘出した幼虫の神経系をルシフェリン含有培養液内で培養し、発光量に概日リズムがあるかどうかも調べたが、2日目以降には発光の急速な減衰が起きた。培養条件が適当なものでないため組織が死亡してしまうのが原因と考えられるので、培養条件の検討が次年度の大きなテーマとして残された。現在、pdf-gal4とマーカーを同時に持つ系統を作成中である。Brat遺伝子に対するRNAi系統とpdf-gal4系統を交配して歩行活動リズムを測定すると、無周期になる個体がえられた。予測どおりペースメーカー細胞の分裂が停止せず腫瘍化したためと推測している。これらとは別にmCD8に対する抗体を使用して磁気ビーズによる細胞分離法を培養細胞で試みた。確立しつつあるpdf-gal4:mCD8::GFP系統とRNAi系統の交配により、次年度は、腫瘍化して無限分裂可能なペースメーカー細胞の分離と培養を行う。
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