グリシンは、脳幹や脊髄における主要な抑制性神経伝達物質として、神経の電位活動の制御に加えて、運動、呼吸、感覚情報処理など脳の機能を構築する上で重要な役割を果たしている。小胞型GABAトランスポーター(VGAT)とグリシン・トランスポーター2(GlyT2)とはグリシン作動性神経伝達に不可欠な分子であり、いずれもグリシン作動性ニューロンに局在するのでグリシン作動性ニューロンのマーカー蛋白として利用される。VGATは、グリシンのシナプス小胞への貯蔵を担い、GlyT2はグリシンのシナプス間隙からの除去とシナプス前終末内への再取込みを担う。本研究では、in vivoおよびin vitroにおけるグリシン作動性神経伝達の役割を明らかにする目的で、グリシン作動性ニューロン特異的にVGATをノックアウトしたマウス(グリシン作動性神経伝達遮断マウス)の作出を目指した。具体的には、グリシン作動性ニューロン特異的にCre recombinaseが発現するGlyT2-Creノックインマウスを作成し、条件付きVGATノックアウトマウス(VGAT-loxPマウス)と交配することにより作出することにした。既に作成したVGAT-loxPマウスは繁殖させ、維持した。GlyT2-Creノックインマウスに関しては、遺伝子標的法でGlyT2遺伝子のエクソン2にCre recombinase遺伝子をノックインした胚性幹細胞をマウス8細胞期胚に導入した結果、14匹のキメラマウスを得た。キメラマウスと野生型マウスとを交配し、生まれた仔についてサザンプロットを用いた遺伝子解析でGlyT2-Creノックインマウスを同定した。Cre recombinaseのグリシン作動性ニューロン特異的発現を確かめるためレポーターマウスと交配し、仔を得た。今後は、GlyT2-CreノックインマウスとVGAT-loxPマウスとを交配することにより、グリシン作動性神経伝達遮断マウスを得る。
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