四足哺乳類の多く(猫、ライオン、ネズミなど)は、親が仔を口にくわえて運ぶ。この時、仔は反射的に手足を縮め、体幹を弛緩させた姿勢で不動となる。これをトランスポートレスポンスTransport response(TR)といい、この反応により親は仔を運びやすくなると考えられる。TRは、子が親から適切な養育行動を引き出すための愛着行動の1つであることが示唆されるが、これまでの研究はラットを用いた行動学的解析にとどまっている。そこで本申請者は、ヒトを含む哺乳類の愛着行動の神経基盤解明を目指し、モデル動物として遺伝子工学的アプローチが可能なマウスを用い研究している。本年度は、昨年度に撮影した生後9-20日齢の近交系C57BL/6マウス370匹のTR動画データから各個体の不動時間と四肢の姿勢を記録し、ラットでの既報を参考にマウスTR変化を定量的に解析した。生後9-12日齢マウス仔では不動時間の維持は見られるがTR特有の姿勢制御は起こらない。生後14-16日になるとTRが顕著に検出され、生後17日以降は急速に反応が消失していくことが明らかになった。また母親と離して、新規環境下で新規オスへ暴露するストレスを与えると、生後9-12日で見られる不動反応は影響を受けないのに対して、生後14-16日で起こるTRはストレス暴露で反応時間が有意に短縮した。このことから、マウスTRは単純な姿勢反射ではなく、個体が置かれている社会的状況に応じて起こる、より広範な脳部位が関与する能動的な反応であることが示唆される。本研究助成により、初めて定量的にマウスTR変化を解析できただけでなく、神経基盤解明に向けた次のステップとしてTR関連脳部位の探索へと研究を発展させることができた。
|