1.培養上衣細胞を用いた解析:前年度に確立した上衣細胞培養を用いて、細胞内に極性が形成されるかを調べた。蛍光ビーズを繊毛に付着させ、ライブイメージングによって観察したところ、約半数の細胞において繊毛が細胞内で同方向に運動していることが明らかになった。さらに、極性形成との関与が示唆されるPCP遺伝子群について過剰発現・ドミナントネガティブ型を導入し、効果を解析した。その結果、Dvl2のドミナントネガティブ型の導入により、繊毛運動方向が乱れることを見いだした。このことは、PCPシグナルが繊毛の運動方向の決定に関与することを示唆している。 2.上衣細胞分化過程の解析:前年度、上衣細胞の分化過程において繊毛の形態と運動機能が生後1週間で成熟することが繊毛の基部の局在が細胞内で変化することを見いだした。本年度は、繊毛の形成に先立って細胞膜に出現する繊毛基部に着目したところ、分化過程初期では細胞のアピカル面に広がって存在し、より遅い時期では細胞の前部に局在することを見いだした。細胞内で繊毛基部が移動するかを明らかにするために、繊毛基部がGFPによってラベルされたトランスジェニックマウス(Centrin2:GFPマウス)の脳室を用いてライブイメージングを行った。その結果、繊毛基部が細胞内を前部へ向かって移動することを見いだした。さらに、この過程に伴って繊毛の運動パターンが変化するかを調べるために、同トランスジェニックマウスを用いて繊毛を蛍光標識し、高速イメージングにより繊毛運動を観察した。その結果、繊毛基部が細胞全体に存在するときは繊毛がいろいろな方向に運動しているのが観察されたのに対し、繊毛基部が細胞前部に局在しているとき繊毛は一方向に協調的運動をしていることが明らかになった。この結果は、繊毛基部の細胞前部への移動が、上衣細胞の極性決定における重要なステップであることを示唆している。
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