研究概要 |
長い間、成体哺乳類の中枢神経系ではニューロンは新生しないと考えられてきた。ところが近年、脳のごく限られた領域では生理的な条件下において、終生にわたってニューロンが新生され、既存の神経回路に組み込まれていることがわかってきた。しかし、これらのシステムにおける神経幹細胞の維持・分化制御の分子メカニズムはほとんどわかっていない。本研究では、成体脳においてニューロン新生が起こる限局した領域の、ニューロン新生を促す微小環境の分子実体の解明を目指している。 まず、今年度は生理的条件下で神経新生が起こっている側脳室外側の脳室下帯(SVZ)から、神経幹細胞を含むグリア細胞集団を単離、単層培養を行った。細胞増殖因子の除去により分化誘導をかけて、神経新生を惹起するin vitro実験系を確立した。このin vitro実験系を用いて、神経新生促進因子/阻害因子のスクリーニングを行い、アストロサイトから分泌されるニューロン新生の阻害因子を同定した。さらに、細胞外のヌクレオチドを分解する、エクトヌクレオチダーゼやアルカリフォスファターゼの脳室下帯(SVZ)における発現を詳細に解析し、細胞外に存在するATPなどのヌクレオチドが、成体脳における神経新生を修飾している可能性を報告した(Langer, et. al.,2007)。
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