マウス視覚野切片標本において近接する2つの2/3層錐体細胞から同時ホールセル記録を行い、一方の細胞に活動電位を発生させると、潜時が短く、短シナプス様の抑制性シナプス後電流(ip-IPSC)が他方の細胞からしばしば記録されることを発見した。この錐体細胞間抑制は、前者の錐体細胞が、後者の錐体細胞の細胞体に結合する抑制性シナプス前終末に興奮性結合し、その終末をグルタミン酸で興奮させて、そこからGABAを放出させ、後者の錐体細胞にIPSCを発生させることにより生じる可能性を検討した。約3msを境にip-IPSCには短潜時と長潜時のものがあった。前者はカイニン酸受容体だけが介在しており、AMPA受容体阻害薬の影響は受けないが、カイニン酸受容体阻害薬により消失した。後者には、両受容体が関与しており、どちらの受容体の阻害薬によっても反応はほとんど消失した。抑制性介在細胞への興奮性シナプス伝達は、AMPA受容体により伝えられており、カイニン酸受容体を阻害しても全く影響を受けなかった。また、錐体細胞から記録された微小IPSCの発生頻度は、AMPA受容体とカイニン酸受容体のどちらのアゴニストによっても発生頻度が上昇し、どちらのアンタゴニストによっても減少した。これらの電気生理学的実験結果は、我々の仮説を強く支持する。また、1つの錐体細胞にバイオサイチンを導入し、その軸索を染色し、それと共に、GABA終末のマーカーのGADと錐体細胞の軸索終末のマーカーのVGluT1の抗体染色を行ったところ、錐体細胞の軸索終末が、他の錐体細胞の細胞体を取り囲むGABA終末に接している像が多数の錐体細胞の細胞体周囲に見られた。この形態学的所見も我々の仮説を支持している。
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