マウス新皮質のスライス標本を用いて錐体細胞間抑制結合の解析を行った。形態学的解析により錐体細胞間抑制結合の存在とその空間的広がりを調べた。2/3層錐体細胞からホールセル記録を行い、記録細胞にバイオサイチンを導入した後、標本を固定し、免疫組織学的検索を行った。バイオサイチンにより染色された軸索のVGluT1陽性ブトンが他の錐体細胞を取り囲むGAD陽性ブトンに接触している像が多数見られ、これが錐体細胞間抑制を形態学的に示すものと考えられる。このような形態像は、開眼後間もない時期(生後16-19日)、感受性期(生後20-30日)、成熟期(生後50-60日)の視覚野及び生後20-30日の体性感覚野でも見られた。また、感受性期の視覚野では5層の錐体細胞にも同様な構造が存在した。感受性期の視覚野2/3層において定量的に解析した結果、このような像は錐体細胞の軸索の近位から遠位の部位にかけて広範囲にほぼ同程度の頻度で存在した。感受性期の視覚野2/3層錐体細胞からホールセル記録し、興奮性シナプス後電流の逆転電位に膜電位固定し、4層においた刺激電極により誘発される抑制性シナプス後電流(IPSC)を記録すると、潜時が一定で短い単シナプス性と思われるIPSCが記録される。Non-NMDA受容体阻害薬NBQXを投与すると、そのIPSCの立ち上がりの傾きは半分程度に減少するので、IPSCの立ち上がりの部分は、短シナプス性IPSCと錐体細胞間IPSCからなると考えられる。体性感覚野と運動野においても同様な所見が得られた。以上の結果は、錐体細胞間抑制結合は発達初期から成熟期にかけて、新皮質では領野とは無関係に一般的に存在することを示唆している。
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