研究代表者はエチルニトロソウレアを変異原に用いて変異体スクリーニングを行い、ピンセットでつつく刺激を与えてもほとんど動かない変異体を単離した(以下、これを単に変異体と呼ぶ)また、この変異はメンデル遺伝することから単一の遺伝子の変異によるものと思われたが、実際に責任遺伝子のマッピングを行い、変異を6番染色体上の50kbの領域にしぼり、さらにその領域にある遺伝子をクローニング、シークエンスすることで、新規遺伝子SH3P1に変異を見いだした。SH3P1のイントロンのスプライシングアクセプター部位に点変異があり、選択的スプライシングに異常が生じて終止コドンが生じるため、正常なSH3P1タンパクが合成されないことを見出した。本研究はSH3P1の機能を解明することで、この変異体における運動異常のメカニズムを明らかにし、その知見のヒト疾患への応用を目指すものである。電気生理実験をさらにおし進め、運動時の筋電位変化をパッチクランプ法で測定する実験を行った。運動を誘発する触刺激のシグナルは感覚ニューロン→介在ニューロン(脳)→運動ニューロンを介して筋に伝えられ、正常個体の場合では30Hzの脱分極を筋で起こすことが知られているが、変異体でも30Hzの電位変化が同様に観察されたことから、変異体では筋に異常があることが示唆された。実際にSH3P1のmRNA発現を調べると、筋で強いシグナルが見られた。これは筋に異常があることと合致する結果である。また、SH3P1を特異的に認識するモノクローナル抗体の作製をし、局在の解析を試みたが、免疫染色で明確な細胞内局在は分からなかったが、筋細胞全体でシグナルが検出された。アンチセンスモルフォリノを用いたノックダウン実験で、変異体の表現系がコピーできたこと、正常型mRNAを導入するレスキュー実験で変異体の運動を回復できたことから、変異体の責任遺伝子はSH3P1であると必要十分に確認できた。
|