研究概要 |
まず,初年度は,細胞焦点接着斑への力学刺激デバイスとして,円柱状の微細な剣山が並んだPDMS(polydimethylsiloxane)製の弾性マイクロピラーの作製方法を検討した。弾性マイクロピラー用の鋳型を作製するために,シリコンの微細加工技術としてドライエッチング法とフォトリソグラフィ法を検討したところ,フォトリソグラフィ法で作製した鋳型を用いた方が,寸法精度,鋳型剥離性がともに安定しており,精密な弾性マイクロピラーを作製できることが分かった。この手法によって,直径2〜3μm,深さ約10μm程度のマイクロピラーデバイスを作製することが可能となった。 さらに,この弾性マイクロピラーを駆動させる方法を検討した。ピラーの作製過程において,PDMS溶液中に平均直径約1.5μmの鉄粉を混入して鋳型に流し込んだ後,下方からネオジム磁石によって磁力を負荷して磁性粒子を鋳型底面に沈めさせた。この状態でPDMSを加熱硬化し,表面近傍のみ磁性体が入ったマイクロピラーデバイスを作製することができた。そしてピラーの周囲に磁場を形成することにより,磁力線の方向に沿って,特定のマイクロピラー先端に数100nN(細胞の発生張力と同程度)の力を負荷し,撓ませる技術を確立した。 また,細胞分裂などの細胞機能に深く関与する細胞骨格として,アクチンフィラメントと微小管に注目し,それらが細胞内で力学的にどのように作用しているのか調査した。具体的には,アクチンフィラメントや微小管を選択的に重合・脱重合させた状態で,細胞の3次元的な形態や,筋細胞の収縮特性・引張特性などを詳細に調べた。その結果,アクチンフィラメントは細胞内に向かって圧縮力を発生し,微小管はその圧縮力に対する抵抗として機械的に作用しており,それぞれが細胞の3次元形態や機械的特性の制御に大きく関与していることをに示す知見が得られた。
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