本年は、昨年度来蓄積してきた、刀剣の思想に関する映像を編集し、DVD「刀剣にこめられた日本人の心」(42分10秒)を完成させた。本映像は、人間国宝である故宮入行平刀匠の高弟であり、刀剣界において数々の受賞歴をもつ藤安将平氏の作刀過程に焦点を当てたものである。玉鋼から折り返し鍛錬を重ね、沸かし延べ、素延べ、火造り、土取り、焼き入れ、仕上げと続く工程を網羅的に収録し、併せて藤安刀匠のインタビューからその思想を浮かび上がらせたものである。通常、刀工が作刀過程を撮影させるということは非常に稀であり、しかも玉鋼から日本刀一本完成するまでを記録したものは管見する限りにおいてない。その意味で非常に貴重な映像作品ができたといえる。また藤安氏は、古刀復活をめざす刀剣界では非常に有名な刀匠であり、作刀にかける思想哲学を語っていただいているところにもこの作品のオリジナリティーがある。本研究成果は、欧州を中心に活動する武道文化フォーラム(NPO、本部ブダペスト)と協力し、ハンガリー語訳され、2008年11月3〜7日に開催されたハイドゥビハールにおける日本デーで上映され、大反響を得た。また刀剣の思想において未解決であった鹿島の剣について、藤安刀匠との研究打合せから示唆を得て、新たに文献学的に解明し、これを学会において発表することもできた。本研究成果は、身体運動文化学会に原著論文として投稿し、アクセプトされている(印刷中)。文献学と映像人類学の循環的関係が新たに出来つつあると考えている。
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