本研究の目的は、現在、北関東から東北地方一帯にかけて実施されている「剣道3時間立切試合」に関する経験者・関係者への聞き取り調査と参与観察、および文献資料の収集を通して社会学と文化人類学の視点から「エッジワーク」(edgework)すなわち「自らリスクを冒す行動」(voluntary risk taking)としての武道の伝統的稽古法の持つ社会現象学的意味を明らかにすることである。 本研究は拙著『隻流館の挑戦-柔道勝負合わせ千本の試練』(平成15年)において構築した理論に基づいて、そうした過酷な稽古法を現代においてなお遺している武道の世界では死やケガ、痛みといった現代の社会と文化の中では決して意味を持たないものが、文化的にも社会的にも深い意味を持つものとして自然的態度で受け入れられ、そこに人生の意義ですら認めようとしていることに着目し、人はなぜ、そうした過酷な試練に自ら挑戦しようとするのか、また、そこに何を発見しようとしているのか、を問い、「人間の不思議さ」を明らかにしようとするものである。 1年目は、本調査に入る前の諸準備と、各地に伝承されている身体技法の歴史的史料の収集および関係者への聞き取り調査を実施した。2年目は、史料の収集と分析、および聞き取り調査、さらには「剣道3時間立切試合」の観察を通してビデオ録画を行った。最終年度の今年度は、学会等での発表と研究成果報告書作成に向けて、さらに補充調査を行うと共に、理論研究を進め、最終的なまとめの作業を実施したい。
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