遅発性筋肉痛は、伸張性筋収縮などの運動後数時間から1日程度経過後より発現し、2、3日後にピークとなり1週間程度で消失するが、その機序は明らかではない。運動により白血球(好中球)の活性酸素産生能と抗酸化システムのバランスが崩れると、生体に傷害を与え、サイトカイン産生や筋組織に好中球の侵入が起きるため、筋肉痛の原因として損傷・炎症説や活性酸素による傷害説が提唱されている。そこで、健康な男性8人に片足カーフレイズ運動を負荷し、運動負荷前、直後、1日後、2日後、3日後、4日後に筋肉痛の評価と下腿周径囲を測定し、採血を行った。全血より好中球が選択的に侵入する熱可逆ハイドロゲルを用いて遊走能を測定し、ルミノール依存性化学発光により活性酸素産生能を測定した。さらに血液中の筋損傷マーカーと炎症関連物質の測定を行い、筋肉痛との関連性を検討した。その結果、運動負荷1日後から筋肉痛が発現し2、3日後がピークとなり、4日後には痛みが減少した。好中球の活性酸素産生能は運動直後に上昇し、4日後には運動前と比較して有意に低下した。筋損傷マーカーのGOTは有意に上昇し、CK、ミオグロビンは上昇傾向を示した。サイトカインは抗炎症性サイトカインのIL-10のみ運動直後に有意に上昇し、GOT、CKとの間に有意な負の相関が認められた。激運動や持久性運動では好中球数が増加し活性酸素産生能が亢進する一方、生体には運動により発生する活性酸素を消去する抗酸化システムが存在する。先行研究では運動後に得られた血漿に活性酸素消去能の亢進が示されたが、本研究でもそのために好中球活性酸素産生能の抑制が生じたか、IL-10が好中球機能を抑制した可能性が考えられた。
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