加齢とともに骨格筋の質的量的な低下が生じるが、この現象はサルコペニアと呼ばれており、高齢期の活動性と密接に関係する。サルコペニアは速筋線維の加齢性の萎縮に主として起因したものであることが示唆されており、加齢に伴って速筋線維の動員を要するような強い運動が減少する事がその一因とされている。そこで本研究では、骨格筋内のαアクチニン3タンパク質(ACTN3)の発現調節に関わるACTN3遺伝子が速筋線維中にしか発現していないことに着目し、この遺伝子と高齢者の筋力発揮特性や将来のサルコペニアの進行しやすさを予想するマーカーとなり得るかどうかを明らかにすることを目的とした. 本年度は、ACTN3の異なる遺伝子型(RR:5名、RX:4名、XX:6名)を持つ平均年齢70歳の高齢女性を対象に8週間の筋力トレーニングを実施し、そのトレーニング効果を遺伝子型別に検討した。筋力トレーニングは、筋力トレーニングマシンを用いて行われ、レッグプレス、チェストプレス、レッグエクステンション、ヴァーティカルトラクション、およびレッグカールを、1RMの約50%の負荷で1セット10回を2セット、週2回行った。なお、4週間で負荷強度の見直しを行った。トレーニング効果は、レッグプレスおよびチェストプレスの1RM推定値で評価した。その結果、8週間の筋力トレーニングによっていずれの遺伝子型群においても1RMは有意に向上したが、その向上の程度に遺伝子型間で差は見られなかった。また、対立遺伝子RおよびXで比較した場合にもトレーニング効果に有意な差は観察されなかった。日本人高齢女性の筋力トレーニングに対する効果は、ACTN3遺伝子多型の影響を受けないことが示唆された。 今後さらに被験者数を増やし、筋力の発揮様式やまたその他有酸素トレーニング等に対する応答性の違いなどを検討していく必要性があるものと考えられた。
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