加齢とともに骨格筋の質的量的な低下が生じるが、この現象はサルコペニアと呼ばれており、高齢期の活動性と密接に関係する。サルコペニアは速筋線維の加齢性の萎縮に主として起因したものであることが示唆されており、加齢に伴って速筋線維の動員を要するような強い運動が減少する事がその一因とされている。そこで本研究では、骨格筋内のαアクチニン3タンパク質(ACTN3)の発現調節に関わるACTN3遺伝子が速筋線維中にしか発現していないことに着目し、この遺伝子と高齢者の筋力発揮特性や将来のサルコペニアの進行しやすさを予想するマーカーとなり得るかどうかを明らかにすることを目的とした. 本年度は、体力水準の低い中高齢者を対象に、在宅型でのトレーニングの効果について検討した。高齢女性35名(年齢74±6歳)が、スクワット、レッグエクステンション、レッグカール、ヒップフレクションの4種の運動で構成されたトレーニングを、10回1セット、週3セット以上、2ヶ月間、自宅にて行った。彼女たちの遺伝子多型の頻度は、RR:17%、RX:46%、XX:37%で、R配列の出現率は40%であった。トレーニングの前後で、身長、体重、体脂肪率、握力、長座体前屈、上体起こし、開眼片足立ちを測定したところ、トレーニング前の形態および体力に、遺伝子多型による有意な差はみられなかったが、トレーニング前後での比較では、RX型においてのみ有意(p<0.05)な改善がみられた。また、R配列を持つ被験者(RR+RX)は上体起こしおよび開眼片足立ちで有意な改善(p<0.05)を示したが、XX型では違いは観察されなかった。以上の結果から、体力水準の低い高齢女性における筋力トレーニングへの応答性は、ACTN3遺伝子多型の影響を受ける可能性があることが示唆された。今後きらに被験者数を増やしていく必要性があるものと考えられた。
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