研究概要 |
「うるし(漆)」は縄文文化時代から日本で広く用いられた天然素材であり,今日も漆器などに用いられている。また漆器・漆工芸品は独特の風合い・質感を持ち,装飾性や美しさも兼ね備えていることから,英語で「japan」と表記され,日本を代表する天然素材として世界的に知られている。しかし,日本国内ではもっぱら漆器を中心に塗装材料として用いられているだけであった。本研究では,天然高分子素材「漆」の重合反応を制御する手法を確立し,さらに形態付与(成形),および剛性(柔軟性)制御の検討を進める。これにより,工業的に利用可能な漆の繊維化法(紡糸法)を開発し,多様な漆繊維を作出することを目的としている。 材料とする漆は,市販の「生漆」を用いた.含有成分の特定が必要であるためJIS K5950-1979に従って成分分析を行い,原料中に含まれるウルシオール,ゴム質,水分,含窒素物等の種類と量を特定した.次に,漆の重合プロセスを明らかにするために酵素重合,および熱重合時における粘度変化について実験をすすめた.その結果,特に熱重合プロセスにおいて設定温度を160℃以上にすると急激に粘度上昇がみられ,漆繊維,フィルムの成形加工に適した粘度範囲を把握することができた.これを元に,一定の条件で重合・調製された漆溶液をもとに,フィルム化することが可能となった.また同時に,適当な条件で調製することにより繊維状に紡糸することが可能となった.今後は,さらにプロセス条件を精査して,紡糸状態との関係を調べるとともに,構造・物性についても検証を進める予定である.
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