多価不飽和脂肪酸の循環器病・血管機能に対する研究は多数行われているが、血管内皮細胞タイトジャンクション透過性に特化した研究は報告されていない。本研究は、正常なヒトの血管内皮培養細胞を使用し、各種脂肪酸による血管内皮細胞タイトジャンクション機能調節効果を検討するものである。多様な脂肪酸による血管機能調節作用が明らかにされると、食品としての摂取、薬物としての脂肪乳剤、脂肪酸製剤投与、さらにはprobiotics、prebiotics投与による腸内細菌叢を介する短鎖脂肪酸による効果、各種の介入など、研究内容が大きく発展すると考えられる。 本研究では、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞を2層培養法により培養し、タイトジャンクション透過性の指標として、molecular markerの透過性と膜電位を測定した。実験群は、0.05〜64mM短鎖脂肪酸、500μM中鎖脂肪酸、50〜200μM多価不飽和脂肪酸を添加し、透過性におよぼす効果を検討した。 0.5mM酪酸、1mMプロピオン酸、および32mM酢酸は24時間で透過をいずれも抑制したが(ρ<0.01)、酪酸、プロピオン酸の濃度依存性は明らかでなく、二相性の変化を生じた。他方、中鎖脂肪酸および多価不飽和脂肪酸は透過を促進した。デカン酸は、3時間で透過を促進したが、多価不飽和脂肪酸は24時間でその効果を発揮した。炭素数18と20において、各々n-3系とn-6系脂肪酸の透過性促進効果に有意な差は認められなかった。 以上より、短鎖脂肪酸は透過を抑制するが、中鎖、長鎖脂肪酸は透過を促進し、特に中鎖脂肪酸の効果は3時間と他の脂肪酸に比べ短時間で発揮されたことから、血管内皮細胞のタイトジャンクション透過性におよぼす脂肪酸の効果およびその作用時間は、それぞれ種類によって異なることを明らかにした。現在、その機序と詳細を検討中である。
|