研究概要 |
メチル水銀は,神経毒性をもつ環境汚染物質であり,現在,低濃度の水銀による胎児や小児の運動・精神発達に及ぼす影響が懸念されている。そこで本研究では,ある種の食品・栄養成分は,食品に含まれる環境汚染物質,すなわちメチル水銀の毒性を直接軽減する機能を有するか否かを調べることを目的とする。19年度はまず,食品成分として魚介類に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3多価不飽和脂肪酸が,メチル水銀による神経細胞死を直接軽減するという新規機能をもつかどうかを神経系培養細胞PC12を使って調べた。 DHAなどの各種脂肪酸をアルブミンに結合させて培地に添加して細胞膜に取り込ませ,細胞膜リン脂質の脂肪酸組成を変化させたところに,1-10μMのメチル水銀を投与して24時間細胞を刺激した。Cell Counting Kit 8による細胞毒性測定,及びアネキシンFITC染色やPI染色後の顕微鏡観察を指標として細胞死を調べた。 10-50μMのDHAを添加して培養した細胞では,DHAの添加濃度依存的にメチル水銀に対する細胞死が増加する傾向が見られた。アラキドン酸でもDHAと同様の様子が観察された。一方,オレイン酸やEPAの添加は,メチル水銀による細胞死に影響を及ぼさなかった。これらは予想に反する結果であったため,この現象を検証するとともに,次年度は,低濃度(ナノモルオーダー)メチル水銀の長期間曝露(1-4日程度)による細胞死に対するDHA等の影響,及びアルブミン濃度を変えてDHAの毒性が現れない条件下での検討を行う予定である。
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