研究概要 |
メチル水銀は,中枢神経毒性を示す環境汚染物質である。魚介類は,食物連鎖を経た環境汚染物質を蓄積することから,魚介類を介した低濃度のメチル水銀の摂取が,胎児や小児の脳に及ぼす影響が懸念されている。そこで本研究では,ある種の食品・栄養成分は,食品に含まれる環境汚染物質,すなわちメチル水銀の毒性を直接軽減する機能を有するか否かを調べることを目的とし,食品成分として魚介類に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3多価不飽和脂肪酸が,メチル水銀による神経細胞死を直接軽減するという新規機能をもつかどうかを神経系培養細胞PC12を使って調べた。 DHAなどの各種脂肪酸(10μM)をアルブミンに結合させて培地に添加して細胞膜に取り込ませ,細胞膜リン脂質の脂肪酸組成を変化させたところに,低濃度(100-400nM)のメチル水銀を投与して2〜4日間細胞を刺激した。Cell Counting Kit8等による細胞毒性測定等を指標として細胞死を調べた。 DHAを培地に24時間添加すると,細胞膜リン脂質中のDHAは3%から9%に増加した。このようにDHAの組成割合が増加した細胞では,メチル水銀に対する細胞死が増加する傾向が見られた。一方,アラキドン酸やEPAの添加はメチル水銀による細胞死に影響を及ぼさず,オレイン酸の添加は,細胞死を抑制する傾向にあった。これらの結果は予想に反するものであったため,この現象を検証するとともに,次年度は,ビタミンEなどの抗酸化成分を共存させた場合の効果についても調べ,PC12細胞におけるDHAの作用機構について検討する。
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