大鍛冶とは、江戸時代〜明治時代初期に行われていたが現在は技術の伝承が途絶え、わずかな操業記録しか残っていない鉄精錬工程の一つで、銑鉄を脱炭して軟鉄を作ることを目的とするものである。 これまでの、マッフル炉内の加熱実験と、炉内温度、送風量をモニターしつつスケールダウンした開放炉で行った操業実験により、大鍛冶の細部について、以下の点が明らかになった。(1)操業時間全体のほぼ半分を占める予備加熱の工程は、これに続く熔融のための加熱に備え、原料全体の温度をあらかじめ上げておくことを目的としており、表面に脱炭層を作らないようにするために、800℃程度に留める必要がある。(2)温度を上げると原料銑鉄の熔融・滴下が起こるので、それが定常的に続くように温度を微調整する必要がある。脱炭反応は熔融銑鉄の滴下途中ではなく、炉床に溜まった熔融物に羽口からの風があたることによって酸化して進行する。 この解析結果に基づき、前近代の砂鉄製錬による産物(江戸時代に銑鉄で作られた肘金)と、同じく砂鉄を原料として日本美術刀剣保存協会が年に1回操業する「日刀保たたら」で生産された銑鉄を原料とし、赤外線高温サーモグラフィーと送風量測定装置つきのブロアを使用して、炉内や原料各部の温度をリアルタイムでモニターしながら大鍛冶工程の再現実験を行った。この生成物について、EPMA、硬度測定装置などを使用し、炭素濃度、非金属介在物の化学組成と鉱物組成、金属組織を調べた結果、明治時代の操業記録にあるものと同様の軟鉄(庖丁鉄)を得ることに成功したことがわかった。
|