研究概要 |
研究の初年度として,バックグラウンド大気および海水に含まれる水素および一酸化炭素を正確に定量するシステムを製作し,沿岸海洋環境における水素ガスの挙動について予備的な観測を行った。まず微量還元性ガス検出器を搭載した可搬型ガスクロマトグラフシステムを構築し,海水試料中のガス成分をヘッドスペース法によって分離・定量する手法を確立した。2回の淡青丸による研究航海(KT-07-24航海およびKT-08-4航海)に参加して作動確認テストと試料分析を実施し,船上で問題なく作動することを確認した。本装置を,海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センターに持参し,沿岸海水中に溶存する水素と一酸化炭素の鉛直濃度分布を測定した。表面水については24時間にわたる時系列観測を実施した。その結果,いずれの気体も表面水の濃度が最も高く,深さとともに濃度が減少すること,また陸に近い湾央部の方が外洋に近い湾口部よりも濃度が高いことを見いだした。さらに24時間観測のデータから,昼間の表面水には河川水と外用水との単純な混合では説明の出来ない過剰の水素と一酸化炭素が存在する日周変動を見いだし,有機物の光化学分解反応に伴う気体の発生が起こっている可能性を明らかにした。一方,水素濃度の局い海底熱水試料について,同位体比質量分析計により水素濃度と水素同位体比の測定を行った。代表的な中央海嶺および背弧海盆熱水を分析した結果,高温熱水中での水素と水との間の同位体交換平衡では解釈のできない軽い水素同位体比(δD:-700〜-800‰)を南部マリアナトラフの海底熱水中に見いだした。その理由とメカニズムについて現在考察中である。
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