研究概要 |
北極から南極までの広範囲に生息する海鳥13種(60個体)からワックスを採取した。ワックスは、ガラスフィルター、キムワイプ、または外科用ガーゼを用いて尾腺を拭き取ることによって採取した。試料を超音波抽出し、2段階のシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画・精製後、ガスクロマトグラフ電子捕獲型検出器(GC-ECD)にて同定・定量を行った。 全ての海鳥からPCBs,DDTs,HCHsが検出され、汚染が地球全体に広がっていることが確認された。いずれの汚染物質においても、北半球に生息する種は南半球に生息する種より濃度が高いことが明らかとなった。北半球にPOPsの汚染源が多く存在することによると考えられた。 同じ海域に生息する種であっても、種によって汚染濃度に違いが見られた。例えば亜南極に生息する5種の海鳥のPCBs濃度は、相対的にマユグロアホウドリとアオメウが高濃度、アデリーペンギンとヒゲペンギンが低濃度、ジェンツーペンギンは濃度に幅があり、中間程度であった。マユグロアホウドリとアオメウは主に魚類を、アデリーペンギンとヒゲペンギンはオキアミを、ジェンツーペンギンは日和見的という食性の違いがあり、この食性の違いが汚染濃度の違いに反映されていると考えられた。すなわち、魚類はオキアミより栄養段階が高く、PCBsをより高度に濃縮しており、この傾向はそれらを食した海鳥にも反映されると考えられた。このことはPCBs組成からも支持された。 本研究は、海鳥の尾腺ワックスを用いて極域を含む地球全体のPOPs汚染を包括的に明らかにした初めての例である。今後、非殺傷型モニタリングの特性を活かし、継続的かつ広範囲のPOPs汚染を明らかにすることが可能になれば、外洋における海洋生態系の汚染機構のさらなる解明に貢献できると考える。
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