研究概要 |
草原生態系では、植物自身に蓄えられる炭素量は森林生態系と比較して少ないものの、土壌には多くの炭素が蓄積されていることが報告されている(IPCC,2000)。このことは、今後の地球環境変動における炭素循環において草原の土壌圏炭素が不確定要素を含んでいることを示唆している。しかし、炭素動態の測定や生態学的メカニズムについての知見は少ない。 平成20年度は、アジアモンスーン気候下に成立する冷温帯放牧草原における土壌呼吸速度の季節変動および空間変動を明らかにするため、岐阜県高山市内に位置する市営岩井牧場内の南斜面にて測定を行なった。斜面に沿って10m間隔に10m×10mの区画を5つ設け、各区画につき3つのチャンバーを設置した。2008年の5月から12月にかけて、Vaisala社の携帯式IRGAであるCARBOCAP CO2プローブGMP343を用いて、密閉法により土壌呼吸速度を1日3回(早朝・午前・午後の時間帯)測定した。それと同時にチャンバー付近の土壌温度と土壌水分の測定を行なった。さらに地上部バイオマスと土壌サンプルを採取した。 その結果、斜面全体の平均土壌呼吸速度は土壌温度(地下5cm)と強い指数的相関を持ち、土壌温度がピークに達した9月に平均土壌呼吸速度も最大値を示した。また、年間の炭素放出量は1平方メーター当たり約760gCと推定され、これは冷温帯落葉広葉樹林での値(Mo et. al.,2005)とほぼ同じであった。空間変動については、夏季と初秋を除いて斜面の下部に向かうほど土壌呼吸速度が上昇する傾向が示された。このことは、土壌呼吸の空間変動は時間変動ほど著しい変化を示さないものの、土壌温度の低い春季・冬季に関しては斜面の高低差に応じて変動しうることを示唆している。
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