研究概要 |
石筍や鍾乳石に存在する水包有物中の大気起源の希ガスの存在量や各希ガス間の存在量比は周囲の温度環境を反映しているはずである。いわゆる「希ガス温度計」は地下帯水層水を対象に古環境のプロキシとして広く用いられている(例えば、Kipfer, et. al.,2002による総説など)。石筍には形成時に取り込まれた化石水が包有物として保持されおり、もしそこに溶け込んでいる希ガス量の分析が可能になれば世界各地の試料から様々な年代の古気温情報を得ることができる可能性がある。本研究課題は、石筍包有物中の微量水中の希ガス濃度の精密測定の手法を確立し、鍾乳石が果たして希ガス温度計に適した試料であるかどうか、詳細な検討を行う。本年度は、まず、分析システムの構築を目指して実験システムの整備および試料の分析を行った。既存の分析システムに絶対圧の精密測定を可能にするキャパシタンスマノメーターを導入した。予備実験では真空破砕法で石筍1グラムから放出されるガスの全圧が0.01トールを超える場合があることが分かった。そのほとんどがH20であることが推定されるため、破砕直後の精密な全圧測定は試料から放出された水の半定量値を与えると期待される。フランス産のいくつかの石筍試料の希ガス分析を四重極質量分析計を用いて行った結果、その希ガス同位体組成は大気と変わらないことが分かった。元素存在度は元素分析を起こしていない大気と、重い希ガスに富む大気成分の混合物であることが明らかになり、後者の元素組成からは温度情報を読み取ることが出来るかもしれない。関連する分析手法の開発に関する論文を発表すると共に、学会発表を行った。
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