近年スギ花粉症患者は急激に増加しており、その傾向は山間部より都市部で顕著であるが、その背景に大気汚染物質との関連性が示唆されている。これまで我々は、花粉表面上あるいは内部への大気中のガス成分や微小粒子の吸着を確認してきた。本年は、都市部の横浜と山間部の丹沢大山にて大気中のスギ花粉を採取し、花粉表面上の粒子状汚染物質の吸着状況を検討するとともに、ガス成分の吸着挙動を明らかにするため、スギ花粉へのガス暴露実験を行った。大気中花粉の採取はDurham型花粉捕集器に、SEM試料台を固定して行った。採取したスギ花粉は、SEM-EDXにて形状観察と表面の成分分析を行った。またスギ雄花より直接採取した未飛散のスギ花粉へHNO_3ガスの暴露を行い、その吸着量を求めた。飛散した花粉には様々な粒子状物質が付着しており、横浜で採取した花粉は大山で採取した花粉より明らかに付着量が多かった。SEM-EDXでの検出割合を元素ごとに求めたところ、表面と表面上の付着物では、ほぼ全ての元素で付着物の方が高い値を示した。両地点を比較すると、横浜で採取した花粉からは自然起源の元素に加えて人為起源と考えられる多様な元素が検出され、風向と後方流跡線による解析を行ったところ、花粉表面に存在する微量の人為起源元素は、採取地点近傍の都市大気の影響を強く受けていることが示唆された。また、花粉は大気中の様々なガス成分を吸着するが、特にヘンリー定数の高いHNO_3やHCl、NH_3がよく吸着される。室内において行ったHNO_3ガス暴露の結果、吸着量は暴露量に対してよい相関を示し、低濃度領域において高い吸着率が得られた。今後、PIXEによる花粉表面上の汚染物質について定量的な把握を行うとともに、これらの付着物質による花粉のアレルゲンのアレルギー発現作用の変化について検討したい。
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