従来、放射線発がん機構としては、「DNA損傷-突然変異-細胞がん化」の経路を辿るとする考え方が支配的であったが、本研究では、これまでの我々の研究成果を基盤に、「タンパク損傷-染色体異常-細胞がん化」という経路を辿る発がん経路が存在し、それが主流であるとする作業仮説を提案し、その是非を検討した。平成19年には、従来のハムスター、ラットおよびマウス胎児細胞に加え、p53遺伝子機能を欠失したマウス由来の胎児細胞を用いて検討したが、その結果、p53遺伝子機能を欠失する細胞は、およそ15細胞分裂時期に迎える分裂寿命を容易に乗り越え、不死化し、30細胞分裂時期に造腫瘍性を獲得することがわかりた。一方、正常なp53遺伝子を持つ細胞は、同様に不死化するものの100細胞分裂期を超えても造腫瘍性は獲得しなかった。造腫瘍性を獲得した細胞では、すべての細胞で染色体が三倍体化していたが、造腫瘍性を示さなかった細胞では、すべての細胞で染色体は四倍体化していた。放射線照射は、不死化の時期に影響を及ぼさなかったが、造腫瘍性の獲得時期をおよそ1/3程度まで促進することがわかった。細胞の不死化の時期には、ミトコンドリア機能の昂進が見られ、細胞内酸化ラジカルが増え中心体を攻撃することがわかった。しかし、その時期を超えると細胞内酸化ラジカル量は低下し安定に維持する。これらの研究成果は、我々の仮説を支持するものであり、細胞がん化に結びつく細胞内損傷は、染色体分配装置を構成する中心体である可能性を示唆する。
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