本研究は、放射線発がんが、"DNA損傷→突然変異→細胞がん化"とする古典的な経路(突然変異説)ではなく、"タンパク損傷→染色体異数化→細胞がん化"とする経路が主経路であるとする我々の仮説の是非を検証することを目的として計画した。特に、本提案課題では、放射線発がんの第一標的として、染色体分配装置の安定化に関係するタンパク質成分のうち、テロメア、セントロメアおよび中心体の3種に的を絞り、それらの構造および機能異常が細胞がん化の直接の原因であるかどうかを調べた。 本研究には、放射線による細胞がん化、突然変異、および染色体解析を定量的に行うことのできるシリアンハムスター胎児由来(SHE)細胞、および、結果のヒトへの応用を念頭においてヒト由来培養(HE)細胞を併用した。その結果、(1)放射線照射後、悪性形態変換頻度を判定するコロニー形成までの時期のどの時期に染色体の数的異常が現れてくるかを染色体のマルチカラーFISH法等を使って詳細に検討し、染色体異数化が放射線発がんの起源であることが判った。(2)染色体異数化は、中心体の構造・機能異常が原因で生ずることが判った。(3)中心体の構造異常は、放射線によって直接誘導されるのではなく、ミトコンドリアにおける電子伝達経路の恒常性崩壊が原因となって上昇する細胞内酸化ラジカルが原因となっていることが判った。(4)二動原体染色体は、極めて低率であるが染色体構造異常の原因となるが、染色体異数化の原因とはならないことが判った。等の成果が得られた。これらの結果は、発がん経路にDNA損傷を起源としない経路が存在し、その経路が発がんの主計路であることを示唆している。
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