タバコ煙の多彩な毒性の背景にあるメカニズムは未だ十分に解明されておらず、禁煙以外に有用な予防法/治療法が存在ない。また受動喫煙に関し、実際にどの程度の喫煙環境にどのくらいの期間曝された場合に人体に有害な影響が及ぶのか、未だ明らかにされていない。本研究は、タバコ煙によるダイオキシン受容体(AhR)の高度活性化という我々が発見した事実をもとに、遺伝子工学的に作製したトランスジェニックセンサーマウス(DRESSAマウス)およびAhR-KOマウスを用い、喫煙関連疾患におけるAhRの重要性を明らかにするとともに、センサーマウスによる喫煙環境の直接的、総合的かつ継続的なモニタリングとリスク評価を行うことを目的とする。本年度はまず、DRESSAマウスによる実験的喫煙環境のモニタリング、およびそのリスク評価を中心に検討を行った。具体的にはDRESSAマウスを60x40x35cmの機密なプラスチックケースに入れ、毎分1Lの流量で新鮮な空気を供給し換気を維持するシステムを構築した。次にこのケースに30分毎に6回、250mlのタバコ主流煙を注入し、内部の煙の粒子濃度を継続的にモニタリングした。計3時間にわたるタバコ煙への曝露後、DRESSAマウスは21時間通常の飼育条件に置いた。また定期的に尾静脈から採血を行い、AhR活性化のマーカーである分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)の活性を経時的に測定した。この操作は4日間にわたり繰り返した。その結果、低濃度のタバコ煙への受動的曝露によっても、生体内におけるAhRの有意な活性化が生じる事が明らかになった。この事実は、能動喫煙のみならず受動喫煙においてもAhRの活性化を介したメカニズムが喫煙関連疾患の発症に寄与する可能性を示唆し、喫煙科学/医学の領野に新たな光を投げかけるものである。
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