研究概要 |
本研究は、「DNAメチル化の外因性撹乱に対する修復分子機構を明らかにすること」、具体的には、DNAメチル化の程度が高く神経細胞にしか分化しないことが知られているマウス妊娠中期(妊娠10〜12日目)胎児神経幹細胞の初代培養系を用い、5-Azacytidine(AzaC)によってDNA脱メチル化を促進した際の細胞反応がDNAメチル化状態安定化といかに関わっているかを明らかにすること、を目的とした。マウス個体を用いた検討により、妊娠10日目ではAzaCの投与量に依存して胎児神経幹細胞がグリア細胞分化能を獲得することが分かったが、その際、より低い投与量でインターフェロン応答遺伝子群の発現上昇が認められた。一方で、神経幹細胞の成熟が進みグリア細胞分化能をすでに獲得している妊娠14日目では発現上昇は見られなかった。そこで、「インターフェロン応答遺伝子群がDNAメチル化状態安定化に関わっている」という仮説を立て、RNAi法によってそれらの発現上昇を抑制し調べることとした。まず、胎児神経幹細胞初代培養系にRNAi法を適用するために、グリア細胞分化シグナルの受容体であるgp130の発現抑制を例に調べ、適用可能な条件を見出した。次に、妊娠11日目と妊娠14日目の胎児神経幹細胞の反応を比較するために、神経幹細胞を純化した初代培養系においてAzaC処理したところ、個体レベルでの検討と同様、インターフェロン応答遺伝子群、特にStatl,Irf7の発現上昇が妊娠11日目の神経幹細胞でのみ確認された。RNAi法による検討の結論を得ることが先決であるが、純化した神経幹細胞を用いて得られたこの結果は、インターフェロン応答が、化学物質によるDNA脱メチル化促進という外因性撹乱に対してDNAメチル化程度の高い神経幹細胞のみが起こす反応であることを示唆するものであり注目される。
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