研究概要 |
これまでの研究において,フェノールを唯一の炭素源とし,飽和帯土壌を接種源とし連続集積培養を行ったところ,高トリクロロエテン(TCE)分解活性を得た。群集構造解析およびフェノール分解およびTCE分解に関する動力学的解析の結果,この複合微生物系において,フェノール資化性のVariovorax属細菌群が優占化しTCE高分解機能を担っていることが明らかとなった。本研究は,この優占化機構に関し,異種微生物間の相互作用の観点から解明することを目的とし,微生物生態学的および数理生物学的アプローチを行った。 今年度は,本リアクターから分離した菌株Pseudomonas putida strain P-8とVariovorax sp.strain HAB-24を混合培養し,HAB-24株が優占化するのかどうかを,phenol hydroxylase遺伝子を標的とするreal-time PCR法によって実際にモニタリングを行った。その結果,P-8株は,約10^9 cells mL^<-1>の菌密度で,一方のHAB24株は約10^7 cells mL^<-1>と共に安定に推移し,Variovorax属細菌のHAB24株が優占化することはなかった。 そこで,何故HAB24株が優占化できなかったのかを調べるため,両菌株の連続集積純粋培養によって得られた培養上清が増殖に及ぼす影響について検討した。その結果、HAB24株の培養上清はP-8およびHAB24株自身の増殖に,影響を及ぼすことはほとんど無かった。一方,P-8株の培養上清は,HAB24株の増殖力を約1/10に減少させる事が明らかとなった。 P-8およびHAB24株のフェノール分解に対する動力学的パラメーターを元に,両菌株の混合培養系について数理生物モデルを用いて解析した結果,最終的にP-8のみが生存し,その際の菌密度は,上記実験系とほぼ同一であった。 以上の結果から,Variovorax属の優占化には,本属細菌の特異的な能力よりもむしろ,第3者的な細菌の存在が不可欠であることが示された。
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