研究概要 |
1,3,6,8-テトラフェニルピレン(TPPy)誘導体が示すピエゾクロミック発光について、ナノ集積構造が固体発光特性に与える効果とそのメカニズムの検討を通じて発光機構を検討した。 TPPyのフェニル基にアルキルアミド基を導入した(Alkyl)AmTPPyは、アルキル基が直鎖ヘキシルの場合、固相で水素結合支配の規則構造をとり、青色発光を示すが、圧力負荷により規則構造が消失して発光は青緑に変化することが判明している。(Alkyl)AmTPPyについて側鎖アルキル基の分子構造の効果を検討したところ、アルキル鎖の炭素数をC6から増加させる、あるいは分岐アルキル構造に変えることで水素結合支配の規則構造形成能が低下し、同時にピエゾクロミック応答性も低下した。これは水素結合支配の規則構造形成に際して、アルキル鎖の分子体積も重要であることを示しており、双安定構造の設計に関するより精密な知見が得られた。また鎖長の短いプロピル基では、集積構造の変化が起きず、ピエゾクロミック応答性が失われ、アルキル基の構造が応答性制御にも重要であることが示された。 一方、アミドをエステルに置き換えた(Alkyl)EsTPPyの固体発光は青緑色で、発光波長、量子収率、寿命などはいずれも圧力負荷後の(Alkyl)AmTPPyと同じであり、固相中で同一の環境下にあることが示唆された。(Alkyl)EsTPPyのX線結晶構造解析より、ピレン環同士のπ-πスタッキングは見られないがフェニル基水素とピレン環のC-H…π相互作用は確認され、水素結合がない(Alkyl)EsTPPyあるいは水素結合が乱れた(Alkyl)AmTPPyの(準)安定構造として、モノマー状態からの青緑色発光を示したことが判明した。水素結合がない(Alkyl)EsTPPyでは、圧力を負荷すると固体発光がさらに緑色まで変化し、加圧下でダイマー/エキサイマーが形成されて発光変化を示したものと推定された。以上の結果から、双安定相実現に向けたナノ構造設計をより精密化できただけでなく、水素結合がないエステル系での双安定構造を設計する道筋を示すことができ、設計指針の拡張にも成功した。
|