昨年度はナノチャネルから形成される交互回折格子に参照溶液と試料溶液を導入して、試料溶液の屈折率を高感度に測定できることを実証してきた。そこで、本年度はフェムト秒レベルの時間分解測定(水のカー効果測定)へと展開した。 カー効果測定のためのフェムト秒レーザーシステムを構築した。励起波長は波長400nmのチタンサファイアレーザー(パルス幅70fs)を、プローブ光は基本波である800nmを用いた。プローブ光は光学遅延路を通して、ポンプープローブ測定を可能にした。励起光とプローブ光は同軸としたのち、単レンズによって、ガラス基板上に刻んだナノチャネル交互回折格子に集光照射された。ナノチャネルに導入された水の光カー効果を測定するために、2.5次光のスリット通過後の強度をフォトダイオードにて測定した。参照として交互でない通常のナノチャネル回折格子も測定した(2次光を測定)。 最初に、通常のナノチャネル回折格子に集光した測定した。その結果、励起パルス照射後、500fs以内に光カー効果と考えられる波形を観測した。しかし、このパルスは水が導入されていない状態でも観測され、ガラス由来のカー効果であることが推察された。このように、通常のナノチャネル回折格子ではガラスのバックグラウンドによって、ナノチャネル内の水のダイナミクス測定は非常に困難であった。 次に、ナノチャネル交互回折格子で測定した。参照チャネルには空気を、試料チャネルには水を導入した。その結果、同様にカー効果とみられる波形を観測することができた。そして、水を除いた状態で観測したところ、この波形は観測されなかった。これは、本測定の参照チャネルと試料チャネルの屈折率の差を測定するという原理が時間分解測定においても正しく機能しているという証拠でもある。 以上のように、本法によってはじめてナノチャネル内の溶液の物性測定が可能となり、当初の目標をおおむね達成することができた。
|