原子間力顕微鏡を用いる1分子力学計測とナノボアを流れるイオン電流計測による1分子計測を同時に行なうことができれば、1つの現象を2つの別の目で同時に見ることになり、より優れた1分子分析法となると考えられる。そこで研究代表者は、これらの2つの計測方法を同時に実現する方法を本研究課題で提案した。それを実現するためのアイディアのひとつは脂質二分子膜を形成させ、カーボンナノチューブ(CNT)探針を掘削子として用いてナノボアを形成するというものであったが、CNTの疎水性が災いし、ナノボアの形成の成功には至らず、この方法を断念することとした。一方、この結果からCNT探針先端の親水化処理方法を確立することが重要であるとの指針を得ることができた。そこで、これまでにCNT探針を作製する過程において、CNT探針先端には化学的に反応性の高い官能基が導入されることがわかっていたため、これを足掛かりにCNT先端付近の親水化処理を行なうとの方針とし、そのために重要な足掛かりとなる先端の官能基について、その数を精密に計測する手段を確立した。具体的には、CNT探針における複数個のカルボキシル基と試料表面に多数あるカルボキシル基が接触することで生じる結合の数が離散的に分布するものと仮定し、フォースカーブ測定により得られる破断力のヒストグラムに対して複数のピークによるフィッティングを行ない、CM探針先端におけるカルボキシル基の数および、炭化水素中での1対のカルボキシル基間の水素結合の大きさについて見積もることに成功した。
|