核酸や蛋白質などの化学物質から、進化する生命システムがいかにして誕生したのかという問題の解決は、生命科学が目指す大きな目標の一つである。本申請研究では、(1)機能性RNA-蛋白質(RNP)複合体を試験管内で再構成できる基盤技術を開発し、(2)このRNPを利用して、転写後の遺伝子翻訳を自在に制御できる人工翻訳制御システムを構築する。さらに、(3)このシステムを人工脂質二重膜に内包させ、in vitroにおけるRNAネットワークを内包した細胞モデルの実験進化系を構築する。本年度は、人工翻訳制御システムを内包した人工細胞モデルの作成に特に着目し、研究を進めた。具体的には、無細胞蛋白質合成系であるPURE SYSTEMを内包したリポソームを作成し、個々のリポソームにおける遺伝子発現反応をモニタリング・定量するシステムを新たに開発した(2008年度特許出願済、論文投稿中)。これはリアルタイムで複数のリポソームの動き、遺伝子発現を解析できるこれまでにないシステムであり、人工細胞モデル構築の基盤技術としての利用が期待できる。また、micro RNAなどの低分子RNAを基質として、翻訳をON/OFF制御する人工システムを構築し、これをリポソームに内包することで、目的低分子RNA存在時のみ遺伝子を発現する人工リポソームの作成に成功した。これらの研究成果は、RNAを入力因子として、目的の蛋白質の出力に変換できる、細胞内外で人工遺伝子回路を構築するための「人工情報変換素子」としての利用が期待できる。
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