生命の起源において、核酸や蛋白質などの化学物質から、進化する生命システムがいかにして誕生したのかという問題の解決は、生命科学が目指す大きな目標の一つである。したがって現在、生体分子複合体や、それらの相互作用が形成する人工遺伝子発現制御系を構築する必要性が高まっている。 本研究では、以下三つの研究目標を定めた。(1)機能性RNA-蛋白質(RNP)複合体を試験管内で再構成できる基盤技術の開発、(2)RNPを利用した人工翻訳制御システムの試験管内構築、(3)人工脂質二重膜(リポソーム)内部に上記翻訳システムを内包した、人工細胞モデル進化系の構築。本年度は、特に課題(2)、(3)に焦点を絞り、人工脂質膜内部での翻訳制御システムの構築を達成した。具体的には、(a)PURE SYSTEMとよばれる精製蛋白質因子から構成される無細胞翻訳系をリポソームに内包し、個々のリポソーム内部での遺伝子発現を追跡、定量するシステムを開発した。また、(b)UV照射に依存してDNAやRNAに結合する低分子を利用した、光による人工翻訳制御システムを開発した。この低分子は、配列非特異的に核酸に結合するが、UV照射により、その相互作用が制御できる。この低分子とmRNAを含む無細胞翻訳系にUVを照射することで、翻訳が目的のタイミングで活性化できる。したがって、目的の基質や光照射に依存して、目的遺伝子発現のON/OFFを自在に制御できる人工細胞モデルの基盤技術を構築することに成功した。
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