ATPは生物にとって最も重要な分子のひとつである。さまざまな酵素反応のエネルギー源として必要なだけでなく、RNAをはじめとする生体分子の構成成分(材料)として、またタンパク質のコファクターとしても働いている。ATPはアミノ基を有しており、脱アミノ化を受けるとITPになる。この脱アミノ化反応は中性pH、37℃でも進行し、亜硝酸塩存在下でさらに促進される。ITPの構造はATPと非常に似ているため、ATPが作用する場所でATPと拮抗して競争阻害的に働く可能性がある。またITPを構成する塩基であるヒポキサンチンはアデニンと異なりシトシンと対合できるため、転写の際にITPが基質としてRNAに取込まれると、誤った翻訳をまねき、異常蛋白質が生じる原因となる。このようにATPの脱アミノ化は細胞にとって好ましくない化学反応のひとつである。ITPaseは、ITPをIMPとピロリン酸に分解する活性をもつヌクレオチド分解酵素である。我々はこのITPaseが、細胞内でATPから生じるITPを分解除去し、ATP poolの品質を維持する働きを担っているのではないかと考え、これを確かめる目的でITPaseをコードするltpa遺伝子を破壊したノックアウトマウスを作製した。このITPase欠損マウスは心臓のサルコメアに構造異常があり生後2週で死亡する。このことからマウスではITPase欠損により、ITPが蓄積し、ATPと競合して生体に悪影響を及ぼしている、という仮説を立てた。本研究ではこの仮説を証明するとともに大腸菌でも同様の現象が観察されるかどうかを検証することを目的とする。平成19年度はITPase欠損マウスから細胞を樹立、薬剤処理に寄って細胞内にITPが蓄積する条件の検討を行い、+/+、+/-、-/-の3種類のItpa遺伝子型をもつ細胞株をそれぞれ3系統樹立した。
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