本研究の目的は、飛翔性の海鳥類であるオオミズナギドリを対象として、年間を通じた鳥の移動を追跡する技術を確立し、本種がどのような海域を利用しているか、またその海域がどのような特徴を持つか明らかにすることである。今年度は、まず、7-10月にかけて、岩手県三貫島・新潟県粟島にあるオオミズナギドリの繁殖地で野外調査を行って、昨年度に鳥に装着した光のレベル・着水を記録する記録計(ジオロケータ)を回収した。また、新たに水温の記録を利用することで移動追跡の精度を向上させる解析手法を開発し、その手法を用いて、今年度回収したデータと昨年度までに得られているデータとを合わせて解析した。解析の結果、オオミズナギドリは、日本から3000-5000kmも離れたニューギニア北部海域、アラフラ海、南シナ海の3つを越冬海域として利用していることが明らかになった。また、その中でもニューギニア北部海域は重要な越冬海域となっており、約7割の個体がここで越冬していた。この海域は餌となるネクトンの生産性が高いため、多くの個体にとって好適な越冬場所となっていると考えられた(論文投稿中)。また、繁殖期前期(4-7月)のオオミズナギドリの採餌海域を得られたデータから解析した。主な採餌海域は三陸沖の親潮・黒潮移行域で、この海域の水温が季節的に上昇するのにあわせて、オオミズナギドリの採餌域も季節的に北上することが明らかになった。これは主要な餌であるカタクチイワシの分布の季節的北上と対応していると考えられた(論文準備中)。さらに、動物装着型の移動追跡技術に関するシンポジウムを日本鳥学会年次大会において企画し(オーガナイザー:高橋晃周・依田憲)、これらの技術の持つ可能性について講演を行い、その内容をとりまとめて総説を発表した(高橋・依田2010)。
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